こんにちは、Rikekoです。
突然ですが、「遺伝子編集」って聞くと、どんなイメージがありますか?
- なんだかこわい…
- 生命を操作してる感じがする…
- 倫理的にヤバそう…
そんな風に感じた人、安心してください。実は、私も最近まではちょっとだけそう思っていました。
でも、大学の研究室で実際に「麹菌」のDNAを編集して研究している今、「なんとなくこわい」で済ますには、あまりにも奥が深いということを感じるようになりました。
まだラボで研究を始めてから1年とたたない未熟な私ですが、今回は、そんな等身大のラボ生の視点から「遺伝子編集って、実際どうなの?」という疑問にお答えしていきます。
1. はじめに|「遺伝子編集=こわい?」って思うのは、自然なこと
ニュースでよく目にする「遺伝子編集ベビー」や「倫理問題」。
たとえば2018年、中国の研究者が「HIV感染を防ぐために、受精卵にゲノム編集を施し、双子の女の子が誕生した」と発表して世界的な大議論を巻き起こしました。
このとき使われたのは、「CRISPR-Cas9」という強力なゲノム編集ツールで、HIVが侵入する際に利用する遺伝子「CCR5」を無効化したとのこと。
けれど、
- 本当にその遺伝子だけを編集できたのか?
- 他に思わぬ変異は起きていないか?
- 倫理的に問題はないのか?
といった懸念が多くありました。特に、まだ病気でもない“健康な命のはじまり”に手を加えることの重みには、多くの疑問が残っています。
こうした話題からも、「遺伝子編集=危険な技術」というイメージを持ってしまっても仕方がないと思います。
じゃあ実際のラボでは、どうなのか。実はこうしたニュースからは想像もつかないくらい地道で、慎重で、小さなことの積み重ねなんです。
2. ラボでやっている遺伝子編集って?|地道な作業の積み重ね
実は、私も毎日ラボで“遺伝子編集”をしています。
使っているのはヒトではなく、麹菌(Aspergillus oryzae)という微生物。
目的は、「ある遺伝子が、菌のふるまいや成分の生産にどう関わっているか」を調べること。
そのために、特定の遺伝子を破壊(ノックアウト)した変異株をつくって、野生型とどう違うのか比較したりしています。
作業内容はこんな感じです:
- 遺伝子配列を調べて、変異を入れたい塩基を特定
- 必要なプライマーを設計し、PCRでDNAを増幅
- そのDNAを使って大腸菌でプラスミドを作成
- 麹菌をプロトプラスト化し、形質転換を実施
- 得られた株を選抜し、定量測定や蛍光観察で機能評価
…と、派手なことは一切なく、毎日、菌を植えて、PCR回して、と地味な作業の繰り返しです。
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▶️【コラム】よく出てくる実験用語ミニ辞典
ノックアウト・形質転換・ベクターって何?
→ 簡単解説はこちら(リンク or 挿入コーナー)
「遺伝子編集」って魔法みたいなことではなくて、
地道〜な作業の積み重ねなんです。何度もコンタミしてしまったり、ぜんぜん変異が入らなかったり…。でもその先に、「どうやって目的の成分を効率よく作らせられるか?」という問いの答えがある。
私はこのプロセスに、密かにロマンを感じています。
3. 「遺伝子編集」ってどこまでできる?何がOKで何がNG?
「遺伝子編集」はどこまでが法律的にOKか?これは気になる人も多いはず。
☑ 日本では:
- 微生物や植物に対する遺伝子編集は、用途により規制されますが、多くは【研究・産業利用が可能】
- ヒトの受精卵や胚への遺伝子編集は、法律で【禁止】されています。
また、遺伝子編集」とひと口にいっても、いろんな種類があります。
用語 | 意味 |
---|---|
遺伝子ノックアウト | 特定の遺伝子を壊して、その機能を失わせること |
遺伝子ノックイン | 特定の場所に遺伝子を導入して機能を追加すること |
遺伝子組換え | 外部の遺伝子を導入して性質を変えること |
CRISPR-Cas9 | 特定のDNA配列をピンポイントで編集できるツール |
4. 実際に「遺伝子編集」をやってみて思うこと
正直に言うとはじめて変異株の作製を先輩に教わりながら行ったとき、あまり「遺伝子をいじっている」という実感はありませんでした。
たとえば麹菌は、野生株でも変異株でも、培地上でぱっと見はどちらも同じ“緑のモサモサ”。ちょっと性質が変わったくらいでは、見た目に大きな違いはありません。
でもやっぱり、遺伝子を編集して変異株を作製するのは、何か野生株との違いを見つけるため。私が今やっているのも、「この遺伝子に変異を入れたら、どれくらいコウジ酸がつくられるか?」という実験です。ぱっと見では分からなくても、もとの株とのコウジ酸生産量の違いがデータとして明確に現れるとき、心の奥で「ああ、私、自分の手で自然とは違う力をもった生命をつくってしまったんだ…」という感動が湧いてきます。
そういうとき、改めて思う。
遺伝子編集って、“なんかすごいもの”とか”未知の怖いもの”という風に済ませちゃいけない。
それは、生命の設計図を一文字一文字読み、考え、手を動かして、地道に解き明かしていく行為だということ。
だからこそ、「いま自分が何をしているのか」「どんな変化を引き起こそうとしているのか」をちゃんと理解して、「生命の仕組みに向き合う科学」として真摯に向き合う姿勢が大切だと、強く感じています。
5. 安全管理は徹底|研究室で守っていること
大学や研究室では、以下のような安全管理が徹底されています。
- 🔒 編集した菌は研究室の外には絶対に出さない
- 🔥 実験後はすべての菌体をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)で完全殺菌
- 🧴 少しでも液体が飛び散ったらエタノール消毒
- 📄 実験計画は事前に申請し、倫理審査を通過してから実施
それに、「データは再現性があるか?」「本当にその遺伝子の効果か?」といった責任ある検証も求められます。
社会との信頼関係があってこそ、研究は成り立っています。「自分の研究が、誰かの未来を変えるかもしれない」という影響力があるからこそ、データが本当に再現性のあるものなのか、厳しくチェックしますし、必要であれば何回も取り直しを行い、教授との議論を重ね、信頼性のある研究結果として挙げられるように日々慎重であるべきだと感じています。
7. おわりに|こわいと思ってもいい。でも、知ればきっと変わる
知らないものって、誰だってこわいです。
私もそうでした。
でも、実際に自分で手を動かして、知識をつけて、菌と向き合ってきた今――
「ちゃんと知ることで、不安は小さくなる、むしろ未来を作る道具としてわくわくが増える!」
そう感じています。
この記事が、遺伝子編集に対する“ちょっとした距離感”を縮めるきっかけになったら嬉しいです🌿
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